プラス・マイナスは、どちら側の評価か
評価値は、将棋AIが局面を調べ、その形勢判断を数値にしたものです。先手側を基準にした表示では、プラスなら先手寄り、マイナスなら後手寄り、0付近ならおおむね互角と読みます。
画面によって基準や表示方法が異なるため、先手・後手の名前や説明を最初に確認してください。以下はすべて、先手基準の評価値を使った説明用の例です。
| 表示の例 | 読み取れること |
|---|---|
| +400 → +100 | 先手寄りの評価が小さくなった。まだ符号はプラス |
| +400 → −100 | 先手寄りから、後手寄りの評価に変わった |
| −400 → −100 | 後手寄りの評価が小さくなり、互角へ近づいた |
0は「この将棋は引き分けになる」という意味ではありません。また、+400を「駒を400点分取った」と読むこともできません。数字は、そのAIが示す局面全体の評価です。
参照:[1]
どれくらいのブレなら、気にしなくてよい?
最初に分けたいのは、同じ局面を読んでいる間の揺れと、一手進んだあとの評価の変化です。AIも先のすべての局面を読み切っているわけではありません。読みを進めて新しい攻めや受けを見つけると、盤上で誰も指していなくても、評価値や候補手が変わることがあります。
「100点以内なら必ず誤差」という共通の基準はありません。使うAIや設定、考える時間、局面によって数字の意味は変わります。そのうえで、観戦や初めての検討では、0付近の数十点〜100点程度の上下だけで、悪手や逆転と決めないのがおすすめです。まず少し読みを進め、同じ候補手や評価が続くかを見てみましょう。
次は受け止め方を整理するための架空の例です。すべて先手基準、同じAI・設定で比べます。点数の境界を決める表ではありません。
| 数字の例 | まず、どう見るか |
|---|---|
| 同じ局面で +80 → +30 → +70 | 読みの途中の小さな揺れ。毎回の上下を指し手の良し悪しに結びつけない。 |
| 一手進んで +60 → −40 | 符号は変わったが、どちらも0付近。これだけで「逆転の悪手」とはしない。 |
| 一手進んで +200 → −300 | 同じ条件で読みを進めてもこの差が残るなら、何を見落としたか調べたい場面。 |
| 一手進んで +2500 → +2000 | 500点下がっても、先手寄りの大きな評価は残っている。上の500点の変化と同じ意味にはならない。 |
ここでの「気にしすぎない」は、損をしていないと断定することではありません。小さな差を詰める序盤研究なら、数十点の違いも調べる価値があります。まずは、駒を取られる、攻めが切れる、玉が危なくなる、といった具体的な理由の分かる場面を優先すると学びやすくなります。
振り飛車の序盤がマイナスでも、そこで勝負は決まらない
振り飛車では、まだ大きな戦いが始まっていない段階から、AIが居飛車側を高く評価することがあります。杉本昌隆八段は2023年の取材で、飛車を振った直後にAIの評価が下がる傾向に触れています。ただし、すべての振り飛車・すべてのAIで一定の点数になる、という意味ではありません。
ここでいうマイナスは「振り飛車を指す側から見て低い評価」という意味です。先手基準の画面で後手が振り飛車なら、居飛車寄りの評価はプラスになります。戦法の話と表示の符号を混同しないようにしましょう。
数字をどう受け止めるかには、棋士の実戦感覚も表れます。都成竜馬五段(当時)は2019年の対談で、振り飛車では人間とソフトの感覚がずれることがあり、細かな点差より戦法の要点を理解することを重視すると話しています。玉の堅さ、攻めを続けやすい形、慣れた受け方などは、人間が指しこなすうえで大切な要素です。
だからといって、振り飛車ならマイナスをすべて無視してよいわけでもありません。元の作戦の評価と、その後の一手で生じた損を分けて見るのがコツです。たとえば先手の振り飛車が−200前後で進んでいたのに、ある手から−800へ下がって戻らないなら、「振り飛車だから」で片づけず、その手の前後を調べてみましょう。これは説明用の数字で、振り飛車共通の基準点ではありません。
- 居飛車と振り飛車の違い
飛車の使い方と、相手の構えに合わせた戦法選びを読む。
「勝率90%」なら、人間も9割勝てる?
中継や検討ソフトでは、形勢を%で表示することがあります。見た目は勝率でも、同じ人がその局面から10局指せば9局勝つ、という保証ではありません。正確な指し手を続ける難しさや持ち時間は、人間同士の勝負に大きく関わります。
換算方法にも違いがあります。ShogiHomeの開発者による説明では、同じ評価値+1000でも、換算係数が600なら約84%、1000なら約73%になります。どちらも同じ数字から計算した結果です。画面や設定をまたいで、%だけを単純比較することはできません。
画面上で大きく差がついていても、実戦はその先の指し手で続きます。優勢を保つ手を見つけられるか、相手が難しい選択を迫れるかも、観戦の面白いところです。
同じ評価値でも、「勝ちやすさ」は違う
優勢を保つ手がいくつもある局面と、たった一つの難しい手を見つけないと崩れる局面。評価値が同じでも、人間にとっての指しやすさはずいぶん違います。持ち時間が少なければ、その違いはさらに大きくなります。
検討ソフトで複数の候補を見られるなら、第一候補だけでなく、第二・第三候補との差も見てみましょう。第一候補だけがよく、ほかは大きく悪いなら、その一手に重要な役割がありそうです。何を受け、どの攻めをつないでいるのかを探すと、数字だけでは見えなかった局面の難しさが分かります。
一方、自分の選んだ手が第二候補でも、第一候補との差が小さければ、順位だけで失敗扱いする必要はありません。候補の順位そのものも読みが進むと変わります。正解の番号を覚えるより、その手で形勢を保てる理由を確かめてみてください。
急に動いた数字は、盤面へ戻るきっかけ
数字が大きく変わったら、その一手の前後を比べてみましょう。たとえば、ただで取れる駒ができたのか、玉へ迫る道が開いたのか。数字の増減と盤上の変化が結びつくと、対局の流れが見えてきます。
ただし、着手の直後に数字が動いたからといって、必ずその一手のミスとは限りません。先ほどまでAIが十分に読めていなかった手順が、局面が進むことで見つかる場合もあります。一手前の局面も読み直すと、評価が変わった理由を確かめやすくなります。
中継で「AIの読みを超えた」と感じる手が現れても、AIが将棋の全変化を把握していたわけではありません。最初の候補にはなかった手を、あとから高く評価し直すこともあります。数字の動きと解説を合わせて、その発見を楽しんでください。
- 今の数字は、先手・後手のどちらにとってよいのか。
- 直前の手で、駒の利きや玉の逃げ道はどう変わったか。
- AIの候補手は、何を防ぎ、何を狙っているのか。
自分の対局では、一場面を選んで振り返る
ここからは当サイトがおすすめする使い方です。対局後、グラフで大きく動いた場面や自分が迷った場面を一つ選び、まずAIの候補を見ずに「何を狙って指したか」を言葉にします。
次に同じAI・設定で自分の手と候補手を比べ、候補の先を数手だけ盤で進めます。途中で駒を取る手があっても、取り返されたあとの形まで見てください。「金を離したため玉の退路がなくなった」「攻める前に角の利きを止める必要があった」のように、次の対局で使える一文にできれば十分です。
すべての評価値を追うより、一つの理由を持ち帰る。その使い方なら、数字が上がった下がったという感想から、指し手を考える練習へ進めます。
- ルールの次に学ぶこと
駒の損得や玉の安全など、振り返りの着眼点を読む。
- 将棋のタイトル戦とは?
中継される棋戦の仕組みも知って、観戦を楽しむ。