棋戦の中に、タイトル戦がある

将棋の大会や一連の競技を「棋戦(きせん)」と呼びます。そのうち、竜王や名人といった特定の称号を争うのがタイトル戦です。棋戦は大会の枠組み、タイトルはそこで争う称号、と分けて考えると見通しがよくなります。

現在の八大タイトル戦では、通常、予選や本戦、リーグ戦などで挑戦者を決め、最後にタイトル保持者と挑戦者が向き合います。そこで複数の対局を行うのが「番勝負(ばんしょうぶ)」です。保持者が勝てば防衛、挑戦者が勝てば奪取となります。

ニュースで「挑戦権を獲得」と出たときは、まだタイトルを手にしたわけではありません。タイトル保持者と番勝負を戦う資格を得た段階です。その先に、もう一つの大きな勝負が待っています。

参照:[1]

八大タイトル一覧:番勝負と必要な勝ち数

2026年10月15日時点で、八大タイトルは次の八つです。まずは名前と、何勝で決着するかを眺めてみましょう。表の「1局の日数」はタイトルを争う番勝負のもので、予選や本戦まで同じ日数で行うという意味ではありません。

八大タイトルの番勝負(2026年10月確認)
タイトル番勝負1局の日数
竜王 (りゅうおう)七番勝負 先に4勝2日
名人 (めいじん)七番勝負 先に4勝2日
王位 (おうい)七番勝負 先に4勝2日
王将 (おうしょう)七番勝負 先に4勝2日
叡王 (えいおう)五番勝負 先に3勝1日
王座 (おうざ)五番勝負 先に3勝1日
棋王 (きおう)五番勝負 先に3勝1日
棋聖 (きせい)五番勝負 先に3勝1日

八つは一つの大会の順位ではなく、それぞれ別の棋戦で争うタイトルです。竜王を持つ人が名人戦に挑み、別のタイトルも持つことができます。名前を全部暗記してから見る必要はありません。気になる棋士が今どのタイトルを争っているか、一つずつ確かめてみてください。

番勝負の方式は、過去に変更された棋戦もあります。古い記事や棋譜を読むときには、現在の表をそのまま当てはめず、その当時の方式を確認すると安心です。

参照:[3][5][6][7][8][9][10][11]

「七番勝負」でも、7局すべて指すとは限らない

七番勝負は先に4勝、五番勝負は先に3勝した側が勝ちます。七番勝負なら4勝0敗でも、4勝3敗でも決着です。勝つために必要な数に達すると終わるので、予定された後半の対局が行われないこともあります。

たとえば五番勝負で挑戦者が2勝1敗なら、次の一勝で奪取に届きます。保持者が次に勝てば2勝2敗となり、最終局へ。同じ「第4局」でも、そこまでの勝敗を知っていると、一局が持つ意味がぐっと具体的になります。

日程を見るときは、番勝負の何局目かと、その一局の何日目かも区別しましょう。「第3局2日目」は3局目の将棋の続きを指す日で、4局目ではありません。二日制の番勝負では、一つの将棋を二日間かけて指します。

なお、千日手で指し直しになることもあります。対局を始めた回数をそのまま勝敗の数にはできません。中継では、番勝負全体の勝敗と、今指している一局の進行をそれぞれ追うと分かりやすくなります。

参照:[1][5][13]

二日制の「封じ手」は、何のため?

一日目の終わりに次の手を盤上へ指して帰ると、相手は、その局面を前に自分の手を一晩考えられます。そこで用いられるのが封じ手(ふうじて)です。手番の棋士は次の一手を決め、相手に見えない場所で用紙に記して封筒に入れます。翌朝、その手を開封して対局を再開します。

封じる側は一手を決めてから夜を迎え、相手は実際に選ばれた手をまだ知りません。これにより、相手の着手が確定した局面で、一方だけが持ち時間を使わず考え続けられる状況を避けています。両者とも夜に将棋を考えてはいけない、という意味ではありません。

観戦では、「どの手を封じたか」を考えながら一日目を終え、翌朝、封筒から出てきた一手と予想を比べる楽しみがあります。同じ局面の続きでも、開封を境に対局が動き始めるのが二日制ならではの場面です。

参照:[14]

挑戦者になるまでにも、違う道がある

タイトル戦の見どころは、最後の番勝負だけではありません。誰が挑戦者になるかを決める戦いにも、棋戦ごとの仕組みがあります。

名人戦につながる順位戦では、名人とフリークラスの棋士を除き、A級からC級2組までの五つの組に分かれて戦います。名人への挑戦者になるのは最上位のA級の優勝者。同率首位が複数いれば、プレーオフで決めます。「A級の一局」という見出しは、その挑戦権をめぐる争いの一部なのです。

王座戦は、一次予選・二次予選を経た棋士とシード棋士が挑戦者決定トーナメントで戦います。一方、王位戦には挑戦者決定リーグがあります。どのタイトル戦も同じ勝ち抜き表で進む、と覚えてしまうと、ここで迷いやすくなります。

初めて見る棋戦では、まずこの一局に勝つと、次はどこへ進むのかを対戦表で見てみましょう。挑戦者に近づく勝利なのか、リーグの成績を左右する勝利なのかが分かると、予選の一局にも続きの物語が見えてきます。

参照:[4][9][6]

NHK杯など、優勝を争う棋戦もある

八大タイトル戦とは別に、NHK杯テレビ将棋トーナメントや朝日杯将棋オープン戦など、トーナメントの優勝を争う棋戦があります。日本将棋連盟の基礎知識では「優勝棋戦」として紹介されています。いわゆる一般棋戦として挙げられることもありますが、「一般棋戦」という言葉はタイトル戦を含む広い意味でも使われるため、ここでは優勝棋戦と呼びます。

NHK杯は、その一つです。本戦の勝ち抜き表をたどり、決勝で勝った棋士が優勝します。前の優勝者のもとへ挑戦者が進み、最後に番勝負をする、というタイトル戦の仕組みとは異なります。

優勝すれば大きな実績ですが、NHK杯での優勝を、八大タイトルの一冠には数えません。タイトル戦かどうかは、その対局を楽しめるかどうかとは別の話です。一つのトーナメントを最初から追いかける楽しさもあります。

参照:[1][12]

女流タイトルにも、それぞれの戦いがある

女流棋戦にもタイトル戦があります。2026年10月15日時点では、白玲(はくれい)、清麗(せいれい)、女王、女流王座、女流名人、女流王位、女流王将、倉敷藤花(くらしきとうか)の八つです。先ほどの八大タイトルとは別に数えます。

とくに迷いやすいのが、大会名とタイトル名が異なる場合です。「マイナビ女子オープン」で争うタイトルは「女王」。また、「王座」と「女流王座」、「名人」と「女流名人」もそれぞれ別のタイトルです。

女流タイトル戦を見るときも、保持者と挑戦者、現在の勝敗、何番勝負かの三つが手がかりになります。ただし、番勝負の方式は棋戦ごとに確認しましょう。先ほどの八大タイトルの表は、女流タイトル戦の方式を示すものではありません。

参照:[2]

「九段」と「二冠」は、数えているものが違う

棋士名の横に付く「九段」などは段位です。一方、「竜王」「名人」はそのタイトルを持っていることを示します。段位とタイトルは別の仕組みなので、「九段の次が名人」という一本の階段にはなっていません。棋士の肩書は通常は段位ですが、タイトル保持者にはタイトル名が使われます。

「二冠」「三冠」は、同時に持つタイトルの数を表します。一つの番勝負で2局勝つことを「二冠」と呼ぶわけではありません。たとえば五番勝負で2勝しても、そのタイトルを得るにはもう1勝が必要です。

また、同じタイトルを翌期も防衛した場合は、獲得した期数が増えますが、持っているタイトルの種類が増えたわけではありません。「同時に何冠」と「通算で何期」を区別すると、記録のニュースも読みやすくなります。

次に中継を開いたら、最初に棋戦名を見てみてください。番勝負なら現在の勝敗を、予選や本戦なら対戦表で次の行き先を確かめる。そのひと手間だけで、盤上の一手と、その先にある勝負がつながって見えてきます。

参照:[1][4]