「同じ局面」は、盤面だけでは決まらない

日本将棋連盟の対局規則では、盤上の駒の配置、双方の持ち駒、手番がすべて一致する局面が4回現れると、千日手の成立条件を満たします。「千日」という名前ですが、日数や対局の長さで決まるものではありません。

たとえば盤上の配置が同じでも、前は先手が持っていた歩を、今は後手が持っているなら別の局面です。次に指す側が違う場合も同じには数えません。成る前の銀と、成った銀も区別します。

  • 盤上の駒:場所、種類、先手・後手の別、成っているかどうかが同じ。
  • 双方の持ち駒:どちらが、何を、何枚持っているかが同じ。
  • 手番:次に指すのが先手か後手かも同じ。

「飛車が元の場所に戻った」だけでは、まだ判断できません。盤の外に置いた持ち駒と、次に指す人まで含めて、一つの局面として見るのが出発点です。

参照:[1]

最初の1回を含めて、4回と数える

次の部分図では、両者の金が一つずつ後ろへ下がり、元の場所へ戻ります。両者の持ち駒はありません。図Aを最初の出現とし、それより前には同じ局面がなかったものとして数えます。

▲は先手、△は後手です。まず先手が6八の金を6九へ、次に後手が4二の金を4一へ動かすと図B。そのあと、先手、後手の順に金を戻せば図Aです。二つの図の間には、それぞれ2手あります。

図A 往復を始める局面

後手の持ち駒なし
先手の持ち駒なし先手番
先手の6八の金、後手の4二の金が一つずつ下がります。▲6九金、△4一金で図Bへ。

図B 2手進んだ局面

後手の持ち駒なし
先手の持ち駒なし先手番
金を動かす順番は先手、後手。▲6八金、△4二金で図Aへ戻ります。
図Aから図Bを経て、図Aへ戻る4手
指し手何が変わるか
1手目 ▲6九金先手の金が6八から6九へ。次は後手番。
2手目 △4一金後手の金が4二から4一へ。図Bで、先手番。
3手目 ▲6八金先手の金が6九から6八へ。次は後手番。
4手目 △4二金後手の金が4一から4二へ。図Aに戻り、先手番。

この4手を繰り返すと、図Aは「開始時に1回目 → 4手後に2回目 → 8手後に3回目 → 12手後に4回目」と現れます。最初の局面も1回に数えるので、この例では3往復で成立条件を満たします。「4回戻ってくる」まで待つのではありません。

ここでは数えやすい同じ手順を使いましたが、判定するのは手順そのものではなく局面です。違う道筋を通っても、盤面・持ち駒・手番が一致すれば同じ局面として数えます。この図は仕組みを示すためのもので、両者にこの往復を強いる形ではありません。

参照:[1]

普通の千日手は、その後どうなる?

連続王手によるものを除き、日本将棋連盟の対局規則では、千日手は先手と後手を入れ替えて指し直します。どちらかがその一局に勝った、という扱いではありません。新しい対局は初形から始めますが、持ち時間の扱いは棋戦の規定によるため、単純に全部が元へ戻るわけではありません。

アマチュア大会や対局サービスで指すときは、その場の規定も確認しましょう。「同じ局面が4回」という判定と、その後に指し直すかどうかという運用は、分けて読む必要があります。

なお、連盟の規則には、繰り返しの途中で両対局者が合意すれば4回を待たず千日手にできる規定もあります。また、成立後に両者が指し続けた場合は打開とみなし、再び同一局面が出るまで指し直さないという扱いです。実際の対局では自己判断で駒を片づけず、相手や審判と確認してください。

参照:[1]

一日に二度の千日手。それでも「第4局」

2023年5月28日、第8期叡王戦五番勝負第4局の藤井聡太叡王―菅井竜也八段戦では、二度の千日手が起きました。先後を入れ替えて指し直し、その将棋も千日手となったため、さらにもう一度。三度目に始めた将棋で藤井叡王が勝ち、シリーズを3勝1敗で制しました。肩書は当時のものです。

三度対局を始めても、番勝負の「第4局」が第6局になるわけではありません。千日手を勝敗に数えず、指し直しで決着して初めて一局が完結するからです。

同じ千日手でも、選ぶ理由は一つではありません。藤井叡王は終局後の会見で、最初は後手番での妥当な判断、二度目は苦しい形勢からの指し直しだったという趣旨で振り返っています。繰り返しを選ぶ手にも、今の形勢をどう見ているかが表れます。

参照:[1][2][3]

王手を続けた側が負ける、もう一つの繰り返し

千日手なら、苦しくなったときに王手をかけ続ければよいのでしょうか。そこには例外があります。同じ局面の最初の出現から4回目までの間、一方の指した手がすべて王手だった場合は「連続王手の千日手」となり、王手を続けた側の反則負けです。

次の部分図では、先手の飛車が4筋と5筋を行き来し、後手の玉も5一と4一を往復します。両者の持ち駒はありません。図Cを最初の出現とし、ここからの手順を見てください。

図C これから先手が王手

後手の持ち駒なし
先手の持ち駒なし先手番
▲5四飛で5一の玉に王手。△4一玉と逃げると、図Dになります。

図D もう一度、先手が王手

後手の持ち駒なし
先手の持ち駒なし先手番
▲4四飛で4一の玉に王手。△5一玉と逃げると、図Cに戻ります。
飛車で王手を続ける4手
指し手王手と玉の動き
1手目 ▲5四飛4四の飛車が5四へ。5筋の利きで、5一の玉に王手。
2手目 △4一玉玉が5一から4一へ逃げ、王手を解く。図D。
3手目 ▲4四飛5四の飛車が4四へ。4筋の利きで、4一の玉に王手。
4手目 △5一玉玉が4一から5一へ逃げ、王手を解く。図C。

この4手を3回繰り返せば、図Cが最初を含めて4回現れます。その間の先手の着手は、すべて王手です。したがって、この例では先手が反則負けになります。後手に「先に別の逃げ方をしなければならない」という義務はありません。

気をつけたいのは、図Cそのものでは王手がかかっていないことです。王手を逃れたあとの局面であっても、そこまでの手順が条件を満たせば成立します。最後の一枚の図だけではなく、繰り返した間の着手を調べる必要があるのです。

この例の玉には別の合法な逃げ方もあります。ここで示しているのは「このように応じて往復した場合の判定」で、玉を必ず往復させられる手筋や詰みではありません。

参照:[1]

王手4回で、すぐ反則になるわけではない

王手を4回続けただけで反則になる、というルールではありません。玉が別の場所へ逃げ続け、同じ局面が4回現れなければ、連続王手の千日手にはなりません。長い詰み手順で王手を何度もかけることも、それだけで反則にはならないのです。

逆に、普通の千日手を判定するときには、王手が一度もなかったかどうかだけを見るわけではありません。大切なのは、同じ局面の4回の出現を確認し、その間に一方が王手を続けたかを確かめることです。局面の回数と、王手の連続性を分けて確認すると、混乱しにくくなります。

千日手は、入玉に関連する「持将棋」とは別の規定です。玉が敵陣へ入っていなくても、同じ局面の繰り返しが条件を満たせば千日手になります。

参照:[1]

観戦では、戻った局面にしるしを付ける

観戦中に「千日手になりそう」と聞いたら、そのときの盤面を一つ覚え、持ち駒と手番も確認してみてください。棋譜を戻せるなら、同じ局面が出た手数を書き留めると、どこから繰り返しが始まったかを追いやすくなります。

そして、次に違う手が指されたら、どの駒が動いたのかを見ます。繰り返しを避けた結果、駒の働きや玉の安全が変わったかもしれません。千日手の知識は、判定を覚えるだけでなく、両者がどの局面を選び、どの変化を避けているかに目を向ける入口にもなります。